2013年06月05日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(5)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 壱ノ九

 翌朝。塵塚怪王は、早朝から、いや、正確に描けば千里子が就寝した後から、今では主のいない犬小屋がある小さな庭に出て、そのほぼ中央に陣取るようにして胡坐で座り、目を瞑っていた。その後ろ姿に気が付いて、寝間着代わりの、グレーのくしゃくしゃしたTシャツに身を包んだ千里子は、この一連の流れが夢幻でない事を再確認する。
 最早恒例となったお仏壇と、その横に置いてある写真に手を合わせてから、顔を洗い歯を磨き髪をとかすと、未だ子供妖怪は座っている。ピクリとも動かない。あのままずっと座っているつもりだろうか。何かの儀式なのか、何なのか。邪魔していいのか分からず身支度で時間を費やしたが、そろそろ限界だ。おそるおそる千里子は塵塚怪王に近寄る。
「ねえ、眠ってるの?」
 返事はない。
「ねえ。怪王」
 そっと手を伸ばし、小さいけれど厳ついその肩に指先を伸ばす。それが触れるか触れないかの直前、怪王は目をくわっと見開き、
「おはよう!」
 と怒鳴った。
「ひゃ!」
 このパターンが多いけど、全然慣れない。驚いて芝生の上に尻餅を突いてしまう。
「お、おはよう」
 怪王はくるりと踵を返し、
「人間の娘、いや。お姉ちゃん、とでも呼ぶべきかな。とにかくおはよう。起きた?」
 と聞いてきた。千里子は柔らかい臀部についた葉の屑をぽんぽんと払いながら立ち上がり、
「もう、脅かさないで。あなたは寝てたの?」
 と脅かされて腹が立っていたのか、無意識に反抗して、質問に質問で返した。
「ううん。自分の能力を確かめてたんだ」
 そんな対抗を微塵も気にせず、怪王は部屋に戻りながら解説する。後をついて、
「能力?」
 と千里子。
「そうだよ。どうもやっぱりこの姿になってから本調子じゃないみたいだから、いろいろ確かめてたんだ」
「さっきの瞑想も?」
「瞑想って言うか、あれはね、世相を捕えてたんだ」
「世相?」
 いちいち、怪王の言う事は千里子の理解を超えていて、人が理解できない事を言われた場合そうする傾向があるとの心理学的データを反映するが如く、千里子の台詞はオウム返しが多くなる。
「うん。僕の能力の一つなんだけど、世の中に捨てられているものの情報を感じ取って、時代の世相を自分の知識に反映させる事ができるんだ」

塵塚怪王の能力その1】 ゴミから世相を知る事が出来る。

「捨てられてるものが情報源だから、今流行してるものからは数年遅いかも知れないけど、現代の事は大分理解できた。最も、300年ぐらい経過してたから、データのリローデットに一晩かかっちゃったけどね」
「あ! もしかして、だから喋り方も変わってるの??」
「あれれ〜。気付いちゃった? これ、捨てられてる『漫画』って言う書物の中に良い参考があってね。その中に見た目は大人なんだけど中身は子供っていう眼鏡のキャラクタが出てきて、今の状況に近いから喋り方の参考にしてるんだ」
 おそらく怪王が言っているのは千里子が生まれる前から連載されている推理漫画の事だろう。そんな現代のジャパニーズ・ポップカルチャーまで知っているのだから、現代の事を知ったと言うのは間違いなさそうだ。
「でもね、ごめん」
「ん?」
「その喋り方、あなたのキャラにあってない」
「ば、バーロォ……」


 壱ノ十

 それから千里子は、怪王の口調の微調整を行った。一人称は「僕」より「オレ」が似合うとか、自分の事は気持ちが悪いから「お姉ちゃん」より「千里子」で良いとか、寧ろ喋り方のモデルは、メガネの少年の近くにいたふくよかな少年の方が良いとか、細かい事だ。怪王は「何故我があんな役立たずと同じ口調なのじゃ」と、思わず元の喋り方に戻る程憤慨していたが、何とか納得したようだ。
 時間は既に登校時間を過ぎていた。行かなければならないと千里子は頭の片隅で思っていたが、今このような状況になっている時に、平然と登校するのは、それはそれで違うような気もしていて、昨日倒れた事も報告は行っているだろうし、このまま仮病で休む事にした。因みに、体調は異常なく、寧ろ昨晩死んだように眠りこけたせいもあってか、快調そのものだった。
「それで、他にどんな能力があるの?」
 そうと決まれば、千里子は怪王に興味津々だ。昨日話してくれた事は、状況に圧倒され流して聞いてしまっていて、実はほとんど頭に入っておらず、詳しく聞きたい事だらけだった。
「うん。そうだな。じゃあ、これだ」
 怪王が胸の前で印を組む。専門的には真言密教の仏眼仏母印と言われているものだが、千里子にその知識はないので、マンガの忍者が忍術を披露する時にやるポーズという認識ぐらいでしかないが、怪王は能力を発揮する際、この印を組む場合が多い。何か関係があるのかと思いたくなるが、怪王にしてみても無意識にとるポーズなので、因果関係は不明である。
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・アビラウンケン……」
 小さくぶつぶつと、呪文を唱える。
 すると、
「ひぃっ!」
 千里子は白目を剥いてぶっ倒れてしまった。
「ぉう。この術は効果抜群だな」
 それを見て「きひひ」とイタズラっぽく、怪王は笑うのだった。
 数時間後、千里子は目覚めた。
「私?」
 気絶を2日連続でするなんて、身体に悪いのではないかと思ったが、強烈な悪臭に耐えきれなかった。

塵塚怪王の能力その2】 体臭を悪臭に変える事が出来る。

「そう言えば、普段は何か、コーヒーみたいな匂いしてない?」
「ああこれか。これは300年前に去る人から教わったんだ。当時は薬だったがな、この香りならオレでも簡単に作れそうだったから」
 コーヒーには500種類もの匂いを発する成分が含まれていて、そのほとんどは個々に見れば悪臭と言われる物質なのである。
「で、他に何かあるの?」
「後は、これか」
 そう言って怪王が腕をひゅんと一回転させると、拳が燃えた。まるでマッチ棒だ。可燃性のガスを発生させる事で燃やす事が出来るのだろう。
「家の中では危ないから消して〜!」
「これっぽっちの火、全然本調子じゃないんだけどなぁ」

塵塚怪王の能力その3】 燃えるゴミの性質を利用して発火できる。

「他にもいろいろあるが、後はこれだな」
 怪王はぴゅいと指笛を吹いた。
 しかし、何も起こらない。
「おかしいなぁ。アイツ、オレの妖力が消えたからもう死んじまったか?」
 首を傾げる。
「我が王よ。私めは未だ生きておりますぞ。ほれこの通り」
 そう言えば開けっ放しの窓の方から、そんな声がする。
「きゃぁあああああ!!!」
 またしても千里子は絶叫後気絶してしまった。癖になってるな、こりゃ。
 千里子が気絶してしまったのも無理はない。軒先から顔を覗かせていたのは巨大な鼠だった。
 一時間後。
「オレの使い魔、我楽多丸だ」
 片目で首にスカーフを巻き二足歩行で人間の言葉を話してはいるが、ネズミはネズミだ。千里子は鼠が大の苦手だった。まだ幼い頃、家に一人でいた時、こっそり入って来た野鼠に耳を齧られた事があり、今でもその傷跡が残っているのだ。それは千里子にトラウマとして残っていて、現在も鼠を見ると逃げまどい、少し欠けた耳を見られるのが嫌で以来、一度も耳を出す髪型にした事はない。既に傷は癒えてほとんど分からないぐらいになっているのにだ。しかも良くないのは、このエピソードを話すと必ず国民的人気アニメである猫型ロボットの設定と同じなのでからかわれ、笑い話にされ、親身に受け取ってもらえない、というのも彼女の心の方の傷跡を結果として広げてしまっていた。
 そう言えば、それが原因で守ってもらう為、犬を飼ってもらったのだという事を千里子は少し思い出していた。今はもう、ネズミから千里子を守る犬はいない。
「まぁ、別に仲良くならなくても良いから、紹介だけな。我楽多丸もあんまり人間の娘を脅かさないように」
「嗚呼おいたわしや怪王様ともあろうお方が、人間の力を借りて生きているなぞ」
「喧しい。今日はもういね」
「それど私、300年もの長き間王を待って」
「いね!」
「……御意」
 鼠の使い魔はどこぞへ消えた。

塵塚怪王の能力その4】 ネズミを使い魔として操れる。

 怪王の能力紹介でお昼に差し掛かった頃、千里子のケータイに着信があった。それは友人の文谷恋からだった。

『チリ、今日は学校お休み? 相談したい事があるんだけど』

 (つづく)

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【改造人間・高橋京希、今回の獲得経験値】
 Lv1 肉体力:0(通算9P)
 Lv2 精神力:+1(通算22P)
 Lv1 容姿力:0(通算6P)
 Lv4 知識力:0(通算46P)
 Lv1 ヒーロー力:0(通算9P)
 Lv5 趣味力:0(通算173P)

posted by きょうきりん at 11:56| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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