2013年06月20日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(7)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 Deep Sky 03

 24時間、私は居ても立ってもいられなかった。もどかしくなったり、胸が変に高鳴ったり、或いは急激に奈落の底へ突き落されたみたいな絶望を味わったり。まったくもって忙しい。
 誰、とは告げなかったものの、私、は彼に告白のメールを送ったのだ。これが気にならない訳もない。
 今頃不審に思ってる?
 もしかして私からって気づいてる?
 ううん。彼が好きだって噂のあの子からのメールかもって考えてるかも。
 違う。そうじゃない。送ったのは私。それを伝えたい。振り向かせたい。自分がここにいて、こんなに大きな気持ちを抱えてるって事、分かってほしい。
 学校の廊下ですれ違った時、伏し目がちでそ知らぬふりをして、通り過ぎた時振り返って、
「メールをしたのはこの私!」
 って、どんなに叫びたかった事か。心細いんだよ。こんな宙ぶらりんの気持ち、初めてだ。もうどうしよう。
 でもだけど、待つしかないんだ。それしかない。それが支持。宇宙の法則に似ている。私はそれに従うしかない。でなきゃこの話、ここで終わってしまうんだから。
 経過した。昨日と同じ時間ピッタリに、メールが届いた。ずっと気を詰め過ぎていたから、私はベッドの上で、うとうとしていた。けれどもバイブレーションの音で飛び起きて、すぐにメールの内容を確認する。

『おめでとう。
 ミッション達成よ。
 あなたは24時間、良く耐えたわ。
 もうすぐ彼は、あなたの虜。

 でもね、いけない。
 邪魔してる人がいる。

 心当たりある?

 恋はね、順番があるの。
 今は未だ、あなたにその順番が回ってきていない。

 彼はあなたの気持ちに気付きかけてるけど、
 恋のライバル出現って感じよ。

 心当たりはない?
 彼があなたに振り向かない、その原因。

 もしも思い当たるなら、
 その子の名前を私、シスター・フグルマに教えてちょうだい?』

 あいつだ!
 あいつだ!!
 あの女だ!
 私が「A子」の「あこ」だから、あいつは「B江」で「美江」の「みえ」だ!
 私は「みえ」が大嫌い。彼の幼馴染か、或いは所属してる部活のマネージャーとか、とにかく近い位置にいて、彼を見る目つきを見たら恋してるってすぐわかる。あんなに近くにいたんじゃ、私は全然近づけない。あの子が憎い、あの子が憎い。書いちゃえ書いちゃえ。あの子の名前を教えて、排除してもらわなくっちゃ。

 『みえ』

 送信すると、返事はすぐに来た。

 『ありがとう。
 名前、教えてくれて。
 明日またメールするわね。
 私を信じて。
 シスター・フグルマより』

 何だったんだろう何だったんだろう。これ本当に大丈夫? 一時期冷静さを失っちゃって、よくよく考えたら訳のわからない人に、個人情報だだ漏れしちゃってるかも知れない。送ってちょっと後悔してる。
 でももしも、名前を知らせた事により、「みえ」が彼から離れてくれるような事があったら、いよいよこのメールは本物だ。都市伝説なんかじゃない。本当に効くおまじないなんだ。
 かくして翌日。
 何気ない日常。ぼんやり暮らしてお昼休み。飛び込んできた非日常。ひそひそ聞こえる噂話ざわざわ。
「どうしたの? 何かあった?」
 聞いて私は絶句する。
「あのね何組の『えみ』って子がね、事故にあったんだって」
 その内容は千差万別話の数だけバリエーションも多種多様。事故じゃなくて病気だったり、入院してしばらく学校に来れないという軽いものから、腕や足が欠損したとか、顔が傷だらけになって見れたものじゃなくなったとか、尾ひれがついて残酷描写に拍車がかかったものまで盛り沢山。
 でもねここで重要なのは、あのメールのお蔭でライバルが消えた、って事。ここがポイント。私はもう、彼が私の虜なのではなく、私がすっかりシスターの虜みたいなものになっていた。


 Deep Sky 04

「私のせい?」
 って自問自答や自己嫌悪に陥る場合もあるかも知れない。でも、こういう話で語られる「私」=「あこ」は、案外その辺考えなしだったりする。悪い時には、「えみ」の事故死や半身不随を喜んでみたりして。
 私はどうだろう?
 私はあなたの心の中にしかいないから、その辺どんな風に想像して、補ってもらったって構わない。かえってこの時点で「私」が悪人になってた方が、話のオチまでスムーズに進んでいくから、悪者っぽく考えておいてくれて、私は全然構わない。
 またあのメールから24時間が経過して……そうそう。このメールのする時間も深夜12時丁度とか、尤もらしい設定があった方が説得力があるよね。全然そんな描写これまでなかったけど、深夜12時丁度にメールするって事にしちゃおう。
 かくして深夜0時。1日が終わり、1日が始まる、夜でも朝でもない時間。メールが届く。私は興奮気味にそれを確認する。

『おめでとう。
 あなたのライバルはこれでいなくなったわ。
 もうすぐ、彼はあなたのものよ』

 もうすぐなの?
 まだなの?
 私はどうすれば良いの、教えてシスター!

『あなたは一人の生贄を捧げた事で、
 少しだけ有利に人生を運べるようになったわ』

 え?
 そうなの?
 やったラッキー!

『私には見える。
 総てが見える。
 あなたがこの先、どういう行動を取れば彼と結ばれるか、
 手に取るように見えているわ』

 本当?
 本当なのシスター!
 教えて、どうしたら良いのか教えて!!

『これから先、
 わたしが送るメールの通りに行動しなさい。
 その通りに行動できれば、
 きっとあなたは彼の忘れられない存在になるわ』

 ありがとう!
 ありがとう!!
 私、何でもするわ。
 だって一人、恋のライバルを再起不能にしてるんだもん。この恋を実らせなかったら嘘だわ。「みえ」にだって悪いじゃない。私が幸せになってあげなきゃ、世の中間違ってる。
 教えてシスター。私は先ず、どうすればいいの?
 最初の指示は、彼に近づこう、という趣旨のものだった。関係性はどうあれ、身近な人が事故にあったり或いは死んだりしたのだ。確かに心細くなってる筈。隙間はある。その方法は、ケースによって違う。マネージャーになれとか、とりあえず話しかけろとか、具体的に接近する方法の書かれた指示が書いてある。話によっては、そのタイムリミットが設定されている事がある。いついつまでにこのような事をしろ、とメールに書いてあり、実行しないと恋は実らない。だけじゃない。末尾がこう結ばれる場合もある。

『もしも実行できないと、
 あなたに不幸がふりかかるわ』

 と。
 「みえ」の結末を知ってるから、恋を実らせたい思いと、その恐怖のもう半分から、必死に指示、いや、命令を実行しようとする「わたし」。
 「わたし」にも「みえ」と変わらない未来が待ってるとも知らず、危険な恋にのめり込んでいく。

  (つづく)

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【改造人間・高橋京希、今回の獲得経験値】
 Lv1 肉体力:0(通算9P)
 Lv2 精神力:+1(通算26P)
 Lv1 容姿力:0(通算6P)
 Lv4 知識力:0(通算49P)
 Lv2 ヒーロー力:0(通算10P)
 Lv5 趣味力:0(通算194P)

posted by きょうきりん at 16:45| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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