2013年10月16日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(12)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

---------- ---------- ----------

 夢のうちにおもひぬ(3)

 戯れに似た安息も、一たび燈る灯りのようなふみから目を反らせば、瞬時に暗闇の雲に飲み込まれてしまいそうになる程、場に漂う悪鬼・妖気は峻烈だった。
「行きましょう」
 でなければ、この悪夢は終わらない。豊房は心を強く、今度は自分が前に出て、一歩一歩、最早足の裏が踏みしめているのは、大地なのか肉塊なのか判らないほどに腐敗した塵塚に分け入って行く。
 この先に、何かが居るのは容易に感じ取る事が出来た。
 見える人である豊房は、これまでの事を思い起こしていた。これまでの人生、出生に恵まれ平穏であったとは言え、修羅場みたいなものには何度か遭遇してきている。そのたびそのたび、後ろめたい気持ちの人間の背後には、決まって得体のしれない妖怪が憑りついていた。人の心が生み出し、やがて人を取り込み、飲み込み、操り、破滅させる存在。個人個人に憑りつく妖怪があれば、今の様に世の中に蔓延る妖怪も存在する。それは人々の気分に作用し、どんどん肥大化し、災いを呼び起こすのだ。そう考えれば、今の飢饉も妖怪の仕業なのかも知れない。いや、現にそうなのだと、ふみは言う。
 だがだとしたら、人の心の歪みが先なのか、それとも、存在悪とでも言うべき妖怪が人の心を歪ませ世の中を惑わすのか。
 考えても考えても答えに到達しそうにない。しかし、今の豊房にとって、そうした別の事に考えを巡らせる事で気を紛らわせるのは、気を抜くと吐き気を催し、悪くすれば気を絶してしまいそうな臭気の中では存外に重要な事なのかも知れなかった。
「豊房様」
 ふみの、凛とした声。静止を意味していると理解して歩みを止める。振り向くと、額に小さなしわを寄せ、真っ直ぐをきっと睨んでいる。こういう表情もかわいらしくできているんだな、と、場違いな感心を刹那の時間して、その間抜けた顔を悟られまいと、居住まいを正すようにして豊房は応える。
「ここですか」
「もういます」
「え?」
 顔を前に向ける。
 ゴミが散乱し、小高い山を幾つか作っている塵塚のその先、中央の薄暗い辺りに、小さな人影が立っている。大きさは子供ほどだろうか。目と思われる場所が、ふたつ反射する紅玉の如く光っている。
 不思議と、禍々しさはない。ただ影がじっとこちらを見ているだけで、異様で不気味な事は確かだ。
「塵塚の怪です」
「あれが……で、どうすれば」
「話をしてみましょう」
 話? あの物体と、話を。そもそも通じるのか。
 豊房は勇気を振り絞って、小さな影に語りかける。
「おーい。君、塵塚の怪とお見受けする。少し話を聞いてはくれないか」
 返事はない。
「聞こえているんだろう。某たちは君の力を借りに来たんだ」
 答えない。
「このお嬢さんのお師匠様が悪い妖怪にやられてね、それで世の中この有様なんだ。君の力を貸してほしい」
 小さな影が、小首を傾げる。
 声が、聞こえてきた。
「……チ……チ……」
「え? なんだって?」
「チ……チ……」
「父?」
「チリチリチリチリ……」
「何を言っているんだ? ふみさん、きゃつめは言葉を理解できないのかも」
「チリは塵の事かも知れません。塵塚の怪は、この塵塚の念から誕生した妖怪。ここに廃棄された人々の心が混濁して、まだ自我を得ていないのかも知れません」
「妖怪の赤子って事」
「父、赤子、捨てる……塵、塵、芥、塵……」
「ん?」
 豊房の発した言葉、単語に塵塚の怪は反応しているようだ。
「父赤子捨てる父子供捨てる飢える飢える子供餓死する苦しい苦しいお腹減ったお腹減った……」
「何だか雲行きが怪しくなってきましたよ」
「腹減った腹減った満たしたい満たされたい満たされたい食い物心、食い物っ食い物ぉおおおお!!!!!!」
 影が、みるみる大きくなって、実体を持ち始める。
「ひぃ、あれは、鬼っ!?」
 頭部には数本非対称に生えた角、裂けた口に並ぶ互い違いの牙。その間から覗く血の色を持つ舌。力士を凌駕する筋肉は淫らに脈打っている。その姿はまさしく鬼だ。飢えた鬼。塵塚に捨てられ、飢えて死んでいった人の怨念が生み出した妖怪。塵塚の怪だ。
「憎い。肉体。苦労。喰ろうてやる。空。空腹。喰う」
 構成する筋肉の正体は、強烈な憎しみだった。生まれてから一度も愛情を得ていない人の、制御不能な怒りだ。その怒りは総てを飲み込む。決して満たされないまま、永遠に食い続ける。
「逃げましょう、ふみ殿!」
「いけません! 手なずけなければ」
「そんな無茶な」
「食う!」
 塵塚の怪が襲い掛かる……っ!

  (つづく)

---------- ---------- ----------

【送料無料】超短編傑作選(v.5) [ 創英社 ]

【送料無料】超短編傑作選(v.5) [ 創英社 ]
価格:1,400円(税込、送料込)


---------- ---------- ----------

『twitter』
https://twitter.com/kyouki_love_sat
フォロワー様800人突破! どうもありがとうございます!!

『facebook』
http://www.facebook.com/kyoukitakahashi

【改造人間・高橋京希、今回の獲得経験値】
 Lv1 肉体力:0(通算12P)
 Lv2 精神力:+1(通算39P)
 Lv1 容姿力:0(通算7P)
 Lv4 知識力:0(通算58P)
 Lv2 ヒーロー力:0(通算15P)
 Lv5 趣味力:0(通算316P)

posted by きょうきりん at 10:37| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。