2013年12月10日

2014年発売高橋狂希第1小説作品集【Re:habilitation(リ:ハビリテーション)】メインビジュアル公開! の巻。

思い起こせばここ数年は、
如何にして自分の小説を電子書籍化しようと、
模索を続けてきた毎日でした。

今から2年前、
僕が電子書籍で「破顔のワロス」という長編を出す、
という企画が立ち上がった時、
「こういう表紙にしたいな〜」という僕の漠然とした案を
仲の良い方々の力を借りて作り上げたのですが、
結局それは上手くいかず、
結果、皆で作り上げたその画像はお蔵入りとなってしまいました。

今回、新たにkindleで作品集を出す、
という事が決まった時、
最初、今度は迷惑をかけないように、
全て自分の力でやろう、
そういう風にも考えていたのですが、
震災後、直ぐだった2年前の、自分が持っていた熱い気持ちが、
いろいろと思案していくうちに燃え広がり、
もう1度、あの画像を使ってはどうだろうか?

と、考え直すようになりました。

それから、関係者の方々に再度連絡を取ったのですが、
僕は手伝ってもらっておきながら、
何にもならなかった引け目を感じていて、
今更使用を打診すれば、断られたり、怒られたりするのではないか?
と、気が気でなかったのですが、
そんな不安はどこ吹く風、
皆さん快く使用の承諾をしてくださり、
晴れて、本日、ここにメインビジュアルの公開が出来る運びとなりました。

そんな訳で、
【Re:habilitation】
メインビジュアル公開です!!

riha_s.jpg

Staff
 Total Concept & Cover Desgin : Kyouki Takahashi
 Cover Girl (Model) : Megumi Ito
 Photo : Sumitani
 Illustration : Crown
※表紙デザインは変更する事があります。


せっかくなので、
収録作品も固まってきたという事もあり、
ここで目次をご紹介。


【Re:habilitation】目次

【連載】
 ブレイン・パレット 001(新作・全3回)
【短編】
 雷魚
 タイムマシン
 ローズマリー
 のびやかに声よどこまでも
 三日月が昇る
 学校給食
 「あーっ。」
 バスドライバー
 男根犬
 苺
 SFグッド・バイ(書き下ろし)
 トリアノン・コロニーの殺人事件(書き下ろし)
 できるだけ痛くしないでね(書き下ろし)
 近未来刑罰(書き下ろし)
 繋がり地獄(書き下ろし)
 リハビリテーション(書き下ろし)
【長編】
 ヒビの日々
 ※収録内容は変更される事があります。


表紙は初代ゲーマーズエンジェルの伊藤恵さんにお願いいたしました。

基本的に小説を書く、という事は
個人における最高の思考戦争なので、
あまり誰かと共に作り上げる、という事はないのですが、
だからこそ、こうした表紙等で友達の力を借りて、
一つの物を作り上げていくところは、
自分にとってとても大切なものなのです。

自分一人の夢が、
誰かの手を借りて、
大きく大きく広がっていけば、
こんなに素敵な事はない。

今は素直に、そう思えるのです。
来年、よろしくお願いいたします。執筆作業、頑張ります。

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『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』8日目
IMG_20131209_091119.jpg

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 Lv1 肉体力:0(通算14P)
 Lv2 精神力:+1(通算47P)
 Lv1 容姿力:0(通算8P)
 Lv4 知識力:0(通算61P)
 Lv2 ヒーロー力:0(通算16P)
 Lv5 趣味力:(通算358P)

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2013年11月29日

高橋狂希 小説作品集 Re:habilitation (kindle版)発行予定のお知らせ、の巻。

既にtwitter等では告知をポツリポツリと始めていますが、
少しずつ形が見えてきたので、
当ブログでも第一報という事でお知らせさせていただきます。

これまで何回か「出る出る詐欺」の如く、
僕の電子書籍が出るとか出ないとか、
出すとか出さないとか、
発表されては立ち消えておりましたが、
kindleからのセルフパブリッシングの環境が整いましたので、
ようやく本格的に企画が始動、発表する事ができるまでになりました。

そんな訳で、小説の電子書籍が、出ます。

現在まで決まっている事。

僕のこれまで書いた小説に、
新作を加えた『第1作品集』になります。

タイトルは『Re:habilitation』。
リハビリテーションと読みます。

あとがき、或いは前書きに経緯はしっかりと書くつもりですが、
10年以上小説家になる事から目を背けていた毎日の中で、
自分が世界に向き合う方法がこれだけであるという事実に直面し、
それならもう1度、今度は自分の事を描くだけでなく、
読者を楽しませる事を念頭に書いてみよう、と思い立った
世界と自分の関係性のリハビリ、という意味合い何かが含まれています。

ここ数年、いろいろあって、
震災とか、顔面麻痺とか、
そういうのを経験した上で、
自分が本当にやりたかったことに、
もう1度挑戦してみたくなった、
その今の気持ちを全部出し切りたいです。

収録内容は、
旧作・新作短編がたくさんと、
長編1作(長さ的には中編ぐらいかな)。
それから、新作長編の冒頭部分を加えたものになるので、
かなりのボリュームになると思います。

現在、過去作総ての書き直しと、
新作の執筆に追われています。

長編は『ヒビの日々』という、
或る時から人の顔がひび割れたように見えてしまうようになった青年の話
が収録される予定です。

その他の収録作品の情報は、今後小出しにしてお知らせして参ります。

発行は2014年の春を予定しています。

原稿の執筆具合と、
kindleで出す、という初めての行為なので、
いろいろ戸惑う事、また審査なんかもありますので、
前後する事もあるでしょうが、
できるだけ早く、と考えています。

来月にはメインビジュアルの公開ができるように、
表紙のモデルさんや、写真を撮っていただいた方等に
許可を得ていますので、
来月頭の第2報をお楽しみに!

とりあえず今は、
僕の電子書籍が、kindleから来年出る、
という事だけでも覚えて帰っていただけたら幸いなのです。

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 Lv2 ヒーロー力:0(通算16P)
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2013年10月16日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(12)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 夢のうちにおもひぬ(3)

 戯れに似た安息も、一たび燈る灯りのようなふみから目を反らせば、瞬時に暗闇の雲に飲み込まれてしまいそうになる程、場に漂う悪鬼・妖気は峻烈だった。
「行きましょう」
 でなければ、この悪夢は終わらない。豊房は心を強く、今度は自分が前に出て、一歩一歩、最早足の裏が踏みしめているのは、大地なのか肉塊なのか判らないほどに腐敗した塵塚に分け入って行く。
 この先に、何かが居るのは容易に感じ取る事が出来た。
 見える人である豊房は、これまでの事を思い起こしていた。これまでの人生、出生に恵まれ平穏であったとは言え、修羅場みたいなものには何度か遭遇してきている。そのたびそのたび、後ろめたい気持ちの人間の背後には、決まって得体のしれない妖怪が憑りついていた。人の心が生み出し、やがて人を取り込み、飲み込み、操り、破滅させる存在。個人個人に憑りつく妖怪があれば、今の様に世の中に蔓延る妖怪も存在する。それは人々の気分に作用し、どんどん肥大化し、災いを呼び起こすのだ。そう考えれば、今の飢饉も妖怪の仕業なのかも知れない。いや、現にそうなのだと、ふみは言う。
 だがだとしたら、人の心の歪みが先なのか、それとも、存在悪とでも言うべき妖怪が人の心を歪ませ世の中を惑わすのか。
 考えても考えても答えに到達しそうにない。しかし、今の豊房にとって、そうした別の事に考えを巡らせる事で気を紛らわせるのは、気を抜くと吐き気を催し、悪くすれば気を絶してしまいそうな臭気の中では存外に重要な事なのかも知れなかった。
「豊房様」
 ふみの、凛とした声。静止を意味していると理解して歩みを止める。振り向くと、額に小さなしわを寄せ、真っ直ぐをきっと睨んでいる。こういう表情もかわいらしくできているんだな、と、場違いな感心を刹那の時間して、その間抜けた顔を悟られまいと、居住まいを正すようにして豊房は応える。
「ここですか」
「もういます」
「え?」
 顔を前に向ける。
 ゴミが散乱し、小高い山を幾つか作っている塵塚のその先、中央の薄暗い辺りに、小さな人影が立っている。大きさは子供ほどだろうか。目と思われる場所が、ふたつ反射する紅玉の如く光っている。
 不思議と、禍々しさはない。ただ影がじっとこちらを見ているだけで、異様で不気味な事は確かだ。
「塵塚の怪です」
「あれが……で、どうすれば」
「話をしてみましょう」
 話? あの物体と、話を。そもそも通じるのか。
 豊房は勇気を振り絞って、小さな影に語りかける。
「おーい。君、塵塚の怪とお見受けする。少し話を聞いてはくれないか」
 返事はない。
「聞こえているんだろう。某たちは君の力を借りに来たんだ」
 答えない。
「このお嬢さんのお師匠様が悪い妖怪にやられてね、それで世の中この有様なんだ。君の力を貸してほしい」
 小さな影が、小首を傾げる。
 声が、聞こえてきた。
「……チ……チ……」
「え? なんだって?」
「チ……チ……」
「父?」
「チリチリチリチリ……」
「何を言っているんだ? ふみさん、きゃつめは言葉を理解できないのかも」
「チリは塵の事かも知れません。塵塚の怪は、この塵塚の念から誕生した妖怪。ここに廃棄された人々の心が混濁して、まだ自我を得ていないのかも知れません」
「妖怪の赤子って事」
「父、赤子、捨てる……塵、塵、芥、塵……」
「ん?」
 豊房の発した言葉、単語に塵塚の怪は反応しているようだ。
「父赤子捨てる父子供捨てる飢える飢える子供餓死する苦しい苦しいお腹減ったお腹減った……」
「何だか雲行きが怪しくなってきましたよ」
「腹減った腹減った満たしたい満たされたい満たされたい食い物心、食い物っ食い物ぉおおおお!!!!!!」
 影が、みるみる大きくなって、実体を持ち始める。
「ひぃ、あれは、鬼っ!?」
 頭部には数本非対称に生えた角、裂けた口に並ぶ互い違いの牙。その間から覗く血の色を持つ舌。力士を凌駕する筋肉は淫らに脈打っている。その姿はまさしく鬼だ。飢えた鬼。塵塚に捨てられ、飢えて死んでいった人の怨念が生み出した妖怪。塵塚の怪だ。
「憎い。肉体。苦労。喰ろうてやる。空。空腹。喰う」
 構成する筋肉の正体は、強烈な憎しみだった。生まれてから一度も愛情を得ていない人の、制御不能な怒りだ。その怒りは総てを飲み込む。決して満たされないまま、永遠に食い続ける。
「逃げましょう、ふみ殿!」
「いけません! 手なずけなければ」
「そんな無茶な」
「食う!」
 塵塚の怪が襲い掛かる……っ!

  (つづく)

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 Lv2 精神力:+1(通算39P)
 Lv1 容姿力:0(通算7P)
 Lv4 知識力:0(通算58P)
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 Lv5 趣味力:0(通算316P)

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2013年09月06日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(11)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 弐ノ四

「ちぃっ、ここじゃ千里子の念も届かなくて本気が出ねぇ!」
 カイは立て続けに噴出される、鋭利なカッターのような水撃を、2転、3転と身体を捻りながら飛び避ける。このまま下がって退却する手もあるが、瓶長は元々自分の配下の付喪神だ。そもそも水で冷えてるやつの頭を、更に冷やしてやるまで、こちらも引き下がれない。それが王たる所以なのだ。
「例え塵芥でも、あるのは『埃』じゃなくて『誇り』なもんでなぁ!」
 次の水撃に合わせて、カイは横っ飛び。裏山の森へ入る。
「逃げても無駄でゴボゴボゴボ」
 自在に操れる水に乗っ取られているかのように、溺れた人間のような鬼気迫る声色を発しながら瓶妖怪は追う。
 少し駆け上がれば、とたんに緑は深くなる。生い茂る木々が遮り創り出すのは光の木洩れ日ばかりではない。水撃を遮断する天然の防御壁にもなるのだ。咄嗟の判断で森に入ったのは正解だったようだ。瓶長の発する水撃は、びしゃびしゃと木々に命中するばかりでカイの韋駄天を以ってすれば、避けるのは造作もない事だった。
「とは言え、このまま避け続けるのもかっこ悪いしなぁ。それに、森に入っちまったからには火も使えねえ」
 塵塚怪王が活躍した江戸時代、「火事と喧嘩は江戸の花」という言葉が造成されるほど大火が頻発していた。その記憶がカイの行動に、何らかの影響を与えているのは明白だったが、今彼はそれどころではなかった。
「何か策を、策を考えないと」
 枝に飛び移り、体を前後に振って、勢いを利用しさらに高い木の枝に飛び移る。瓶長の姿が見えない。突き放したか。そう思った瞬間、
「んあ?」
 踏みしめる両足と、支える右手が木に張り付いて動かない。
「なんだなんだ」
 急いで確認すると、木の幹を軽く触っていた右の手の平にべっとりと、見慣れぬ黄金色の液体が付着して、手を覆いつくそうとしている。
「しかも何か、硬くなってきてるじゃないか、なんだぁこれぇ!」
 振りほどこうにも、みるみる謎の液体は凝固していく。
 じゅん!
「のぁ!」
 水撃が一閃。立っていた枝を切り落とし、そのまま「うぁああああああ!」悲鳴と共にカイは落下。強い衝撃で全身を痛める。
「畜生ぅう。これなんだって言うんだよ!」
「樹液ゴボゴボ」
 自由な左手を使って身を起こすと、目の前に瓶長が鎮座ましましている。
「樹液ぃ、そうかぁ」
「お前、森の中に入ってゴボ、自分が有利になったとガボ思ったゴボ。でもそれは違う! 樹木を育むのは太古の昔から水ゴボ。そして儂は水と繋がれば自在にその水を操れるゴボゴボ。お前は今、水で繋がった儂の腹の中にいるも同然ガボゴボ」
「ちぃい。木全体が水で繋がったネットワークみたいなものって事か」
「横文字は遠慮してほしいゴボゴボ。意味不明ガボ」
「木の中の水分は操れる、だからギリ樹液も操れるって事かよ」
「説明補ってくれてありがとうゴボゴボ。ついでに言うと儂の妖力で、樹液は直ぐに固まり琥珀になるガボボ」
 今カイの右手と両足を固めているのは、琥珀なのだ。
「道理で硬い訳だぜ」
「ガボボボボ! そういう訳ゴボだから、動けないうちに儂の水撃で切り刻んでやるゴボゴボ」
 瓶長の目が怪しく光る。カイは自慢の健脚を封じ込められて動けそうにない。
「ま、待った! この琥珀、硬いって言ってもな、宝石の中じゃ柔らかい方なんだぜ!」
「ん〜?ゴボ」
 カイは博識だ。専門に研究し、理解を深めている訳ではないので、衒学的であり、ただ物知りであるに過ぎないのだが、今現在捨てられている書物の情報は総じて頭に入っている。燃やされない限り、その知識をカイは自由に取り出せるのだ。
「硬度はたったの2! こんなもん柔らかすぎて笑っちまうぜ、チーズフォンデュみたいなもんだ」
「横文字止めるゴボ。そうは言っても事実身動き取れてないんだから、何を言っても負け犬の遠吠えゴボガ」
「そうかよ! だがこんなもんなぁ、あっという間に抜け出して、お前なんかその琥珀の破片で砕いてやるよ!! ハードネスランク2の琥珀より、お前の方が脆い土塊だもんな!!」
「だから横文字止めるゴボ!! もう堪忍袋の緒が切れたゴボガ! そんなにまで言うなら、琥珀に閉じ込めて窒息して死ぬガボ!!!!」
 瓶長が大地に水を染み込ませる。たちどころに水は浸透し、周囲の木々に溶け込んでいく。内側から入った水は、木を同方向にしならせる。木々がお辞儀し合う真下には、口先ばかりで動けないカイがいる。木に浸透した水はついに維管束や葉脈まで伝わり、樹皮にまで到達する。そして初めてそこから、瓶長の妖気を吸った樹液がとろーりと、流れ落ちる。
「うわぁわあああああ!」
 ぽたりぽたりは束の間で、雫はやがて一連となり、カイの身の上に流れ落ちる。
「標本の完成ゴボ」
 口にまで入り込んだ樹液は悲鳴をも閉じ込め、断末魔も封殺されたカイは哀れ、瞬時に琥珀と化した巨大な宝石の中に生き埋めとなった。
「いい気味ゴボ。永遠に流れる水は人間には渡さないゴボガ」
 不敵に笑って立ち去ろうとする瓶長は、異変に気が付く。
「何か心が落ち着くような、お香の匂いがするゴボゴボ。これは龍涎香ガボ?」
 見ると、今閉じ込めたばかりの巨大琥珀の天辺から、黒い一筋の煙が昇っている。
「これは何ゴボ」
「はぁああああああああああああああああああぁあ!!!」
「まさかゴボガッ、きゃつめ中で火をゴボッ!」
 瓶長が気が付いた時には手遅れだった。
 ドン!
 という音と共に、琥珀が破裂する。表面は硬く、中は熱で溶けた宝石の散弾が四方八方、猛烈な勢いと熱量で飛散。瓶長はその衝撃とスピードに反応できない。水の膜を諸共せず、アンバー・マシンガンの銃弾は瓶長を粉々に打ち砕いた。
「ぐぁああああ!」
 割れた瓶長は妖力を失い、水がびしゃりとその場に落ちる。瓶長自身も同様だ。ボロボロと粉微塵に崩れ落ちた。
「これ以外にお前の水を防ぎながら火で攻撃する方法思いつかなかった、悪いな、瓶長」
「あれぇ〜、小さくなってますけど、あなた怪王殿では〜?」
「ようやく思い出したか」
 カイは近づき、顔のある瓶の破片を手に取った。
「あれぇ〜、儂はどうしてたんだぁ〜? 何でこんな事にぃ??」
「何だよ、覚えてないのか。お前オレに襲い掛かって来たんだぜ?」
「そんなぁ〜、怪王様にそんな事しませんよぉう」
「だろうけどさ、実際こうなってるんだ。お前一体どうしちまったんだよ。あんなに穏和だったってたのに。また悪酔いしてるのかと思ったぜ」
 瓶長は石燕の弟子、恋川春町(雅号が瓶長だった)がモデルと言われ、彼は狂歌を詠む際の筆名を酒上不埒とする程、酒好きだったと言われている。
「そう言えば意識を失う直前、誰かと話していたような……ぐぬぬ。思い出せません」
「まぁ今はそんな姿だからな。ゆっくり思い出せばいい。それより、その辺に飛び散った琥珀溶かして接着剤かわりにして、お前の事元に戻してやるよ。悪かったなぁ、こんなにしちまって」
「いえいえ、良いんですよぉう。それに何だか、心癒される香りがして、とっても気分がいいんです。これは龍涎香でしょうかねぇ?」
「バーロォ……琥珀は燃やすと、アンバーグリスに似た良い香りがするんだよ」
「あのぅ、横文字止めてもらえます、ちょっと何言ってるかわからないんで」
 すっかり元通りになった瓶長の様子にツボったカイは笑い、それに釣られて瓶長も笑い出し、二人の笑い声が森の中に木霊した。
 その様子を気配を消して伺う者がいるなど、今の2人には知る由もなかった。 

 <つづく>

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 Lv2 精神力:+1(通算36P)
 Lv1 容姿力:0(通算7P)
 Lv4 知識力:0(通算55P)
 Lv2 ヒーロー力:0(通算15P)
 Lv5 趣味力:0(通算267P)

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2013年08月16日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(10)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 弐ノ三

 確かに、五徳猫の言う事には一理ありそうだった。物事を深く考える性質ではない方のカイは、それもそうだなと旧校舎へ再び赴く事にする。
 千里子は、『授業』とやらを告げる鐘の音が最初と最後打ち鳴らされると話していた。しかもその『授業』は1度ではなく、後2回分残っていて、間には『昼休み』と呼ばれる朝食を摂る時間があるのだとか。つまり、今の『授業』の終わり、『昼休み』の終わり、最後の『授業』の始まり、そして最後と、4回は鐘が鳴るという計算になる。それまでに戻ればいい。時間は十分にある。
「邪魔したな」
 保健室を去ろうとするカイに五徳猫が囁く。
「気を付けてね、何があるか分からないから」
「おうよ。心配は無用だ」
 カイが図書室へ向かう間、最も心配していたのは『昼休み』開始の鐘の音があるかないか、適当に聞いていたので思い出せない事ぐらいであった。
「鐘の音は4回か、5回か……」
 ぶつぶつ呟きながら、旧校舎の図書室までやって来た。
 ここにカイは封印されていた。しかし解せない。封印と言うのは、文字通り『封』をして『印』をする。何かに閉じ込めなければならないのだ。しかし、あの部屋に閉じ込めておけそうな箱や壷はなかった。あの図書室全体が封印用の部屋だと考える事もできるが、精々この建物、古くても40年ってところだ。200年近く封印されてきたなら、計算が合わない。どこか別の所に封印されていて、後からこの建物の図書室に封印され直した、という事になり、それなら一度目覚めている筈で、その記憶はない。無論、カイに過去のハッキリした記憶がある訳ではないので何とも言えないが、坊主や巫女ならともかく、普通の娘が掃除をしに来るような場所が封印の地である訳がない。
 となると、やはり何か自分を封印していた物や、その痕跡が残っている筈だ。
 人の気配はない。だが少し、物の怪の匂いがする。カイは警戒した。扉を開き、両側に本が森となって並んでいる図書室の中へ奥へと入っていく。
 オレが目覚めたのは、あの辺りだな。
 最奥付近に、何かがある。
「ん? ツボか?」
 気が付かなかったが、もしかすると自分が封印されていた物かも知れない。怪しがりて寄りてみるに、それはどこか見覚えのある水瓶だった。大きさは少年形態のカイより少し小さいぐらいか。つま先立ちで中を覗くと、そこにはたっぷりと水が湛えられている。
「こんなもん、なかったぞ。あったらゼッタイに気付く!」
 カイがさっと後方へ飛ぶ。みるみる水瓶から蜷局を巻いて妖気が沸き起こる。
「何だお前!」
 水瓶の中央に、ぶわりと人の顔が浮かぶ。
「恐ろしや恐ろしや。本当に来た本当に」
 その顔がぶつぶつと何かを呟いている。カイは彼を知っていた。
「お前、瓶長(かめおさ)か?!」
 付喪神・妖怪の仲間、瓶長に間違いない。しかし、温厚な性格の彼からは信じられないぐらいの禍々しい邪気を感じる。目が血走っている。
「おい、どうしたんだ、我、付喪神の王、塵塚の王ぞ」
「言われたとおりだ。狙ってる狙ってる。儂の中から永遠に溢れる水を狙ってる……」
 聞く耳を持たない瓶長の瓶から水が滴り落ちる。その水はまるで意志でも持っているかのように水瓶を包み、その身体を浮かべた。足も手もない水瓶の、水が手となり足となり、これで自由に動けるだろう。
「許さない! 身勝手な人間は許さない!」
 水瓶から一閃、圧縮された水流が放たれる! 間一髪、カイは身を翻し避ける。代わりに餌食となった金属製の本棚が倒れた。
「バーロォ……危ねえじゃないか! そっちがその気なら、力づくでおとなしくさせてやるぜ!」
 カイの目が赤く輝いて、髪の毛が炎と等しくなる。戦闘態勢に入った合図だ。
「ほら、鈍間な瓶、こっちまで来てみやがれ!」
 挑発し、窓を開け跳躍する。
 振り向くと、
「瓶は瓶でも、その亀じゃない!」
 と、水流をロケット噴射の様にして、瓶長が追って来る。どうやらあの場所の書物は、経年歴史のあるものらしいが、未だ塵として扱われていない貴重な物らしい。ゴミじゃない物をゴミにするべきではない。カイはそう考えていた。
 二人が降り立ったのは、丁度旧校舎の裏側になる。ここなら新校舎の連中にも見えないし、裏はそのまま山だから、見物客は鳥獣ぐらいのものだろう。
「くはーーーーー! 燃えてきたぜ!! そういや、暴れるのも200年ぶりだ!! いっちょ派手に行くか!!」
 そう言ってカイがぐるんと手を回すと、拳が炎に包まれた。
 その瞬間、過去の記憶が蘇る。
 そうだ。この炎のやり方も、オレは教わったんだ、200年前に。
 記憶を思い出すという、不思議な現象がカイの時を止めたが、直ぐに現実に引き戻される。何故なら、瓶長がぴゅっと、軽く水をかけ、あっという間に拳の炎を消えてしまったからである。
「のぁーーーー!? も、もしかしてこれって、相性最悪!?」

SekienKameosa.jpg
瓶長
わざわひは吉事のふくるところと言へば、酌どもつきず、飲どもかはらぬめでたきことを、かねて知らする瓶長にやと、夢のうちにおもひぬ。
(鳥山石燕/百器徒然袋・下より引用)




 夢のうちにおもひぬ(2)

 塵塚への道中、それは凄まじき有様だった。
 折からの飢饉で人々は飢え、病気が蔓延し、死体がゴロゴロ転がり、鼠が人の気配を恐れず死体の耳を齧っているのを目撃できる程だった。
 これまでその有様を目にしないようにと、あまり酷い地域には近づかないようにしていた豊房だったが、早くも来て後悔していた。歩むたび強烈に刺激する死臭に、思わず襟元で顔を覆う。
 前を歩くふみと名乗った女は、この茶色く濁った世界で、ただ一人白い着物を纏い、目の錯覚かまるで淡白く輝いているようにさえ感じられ、最早常人とは思えず、この地獄に舞い降りた天使の様にさえ思えた。
 出会った時から薄々感づいてはいたが、この女子は間違いなく只者ではない。悪鬼妖怪魑魅魍魎の類とは言わないが、神や仏、それに属する類の生き物ではないかと豊房は疑っていた。
 そういう神聖なものがどういう了見で自分の所へやって来たかは分からないが、まあやれるだけの事はやりましょう。しかしこれまた酷い匂いですね、何て四苦八苦してるうちに、塵塚が近づいてきた。
「ちょ、ちょっとお嬢さん、待ってください」
 たまらず、豊房は呼び止める。
「この先、もう時期、塵塚です。世間じゃそこは死屍累々、どうする事もできなかった死体の置き場になってるって話です。道中見たでしょう? 私は中々どうして、この先を行く勇気が出ない」
 がくがくと、足が震えた。立ち止まって、初めて気づいた。
 ここは、妖気が、邪気が渦巻いている。志半ばで死んだ者たちの怨念が、冷たくひたひたと近づいて、頬を、足の脛を撫でていく。あわよくば掬い取って、同じ地獄へ引きずり込もうとする。地獄の餓鬼道とはこの事か。
 ふみは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
 陽は沈みかけ、益々彼女は輝いて見える。
 しかし、その時豊房は驚愕の事実を知るのだ。
 彼女もまた、震えていた。表情がこわばっている。そして、涙を流していた。
「なんで、また」
 道中、図らずも豊房は、彼女を神の使いと仮定し、この惨状をも強い心をもって突き進んでいるのだとばかり思っていた。だが実際は違った。転がる死体に心を痛め、これから現れる物の怪との対峙にも怯えているのだ。怖くて怖くてたまらないのだろう。
「ああ、いけない。そんな顔をしては」
 思わず、豊房はふみを抱きしめていた。温かい、安らぎの気持ちが芽生える。
「どうにも意気地がなくって。もう大丈夫です。頼り何てありませんが、あなたが某を選んだんだ。その某がついてます。某がいれば大丈夫なんでござろう?」
 ふみは、「はい」と頷いた。そして
「豊房様、少し苦しい」とも。
「こ、これは失礼した」
 慌てて文を離し、そうして二人は束の間笑い合うのであった。

  (つづく)

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2013年07月14日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(9)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 弐ノ二

 遅く通学した事で、千里子はちょっとしたヒロインとなった。
 しかしそれも束の間の事。
 すぐに退屈を知らせるチャイムの音が鳴り響き、教室を支配する。
 一方、縛られる事のないカイは、授業中で返答できない千里子を、教鞭をとる先生の真横で踊る等して笑わせたりと、少しからかった後、教室を後にした。
 行くべきところがあった。
 ずっとずっと匂うのだ。犬の様に効くカイの鼻は、とりわけ同種の存在に強く反応する。いる。間違いない。この寺小屋には、自分の他に妖怪がいる。
 くんくんと鼻を鳴らして、匂いの道しるべを辿るようにして階段を降りた。その先には『保健室』がある。妖怪の気配はこの中からだ。カイは物怖じする事なく堂々と、真正面から侵入する。
「頼もう!」
 中には真白い服を纏った女がいるだけだ。女が振り向く。そして目が合う。
「振り向いたって事は、オレが見えるって事だな?」
 カイの赤い髪の毛が、燃えるように逆立つ。好戦的な目で笑う。
「見えてないって言いたいとこだけど、残念ながら見えちゃうのよね〜、これが」
 相手は保険の先生・猫垣高子である。
「人間に化けてるが、人間じゃねえな、お前」
「もー、あんた鼻が良すぎよ。犬みたいで嫌い。会話聞かれちゃうから、後ろの戸、閉めてくれない?」
 そういうと猫垣は椅子に座り、足を組み直す。肉付きの良い太もも、短いスカート。猫のような動作。あまりにセクシーな動作だったので、カイは何だか拍子抜けと照れの感情が去来して、急に戦意が失せる。
「ぉ、おう」
 それで素直に戸を閉めて、さてどうしたものか、何だか知らねえが勢いを削がれちまったぞ、と、困惑しながら踵を返し、もう一つあった椅子に「まだ自分は態度を軟化させていませんよ」という姿勢をアピールするかのように、荒々しく座り腕を組んだ。
「お前何者だ」
「おひさしぶりね、塵塚怪王」
 二人の台詞が食い合う。タイミングが悪い。お互い未だ距離感を掴めていない。それでも、カイは強気なところを見せ、話を進める。
「え? なんだ、お前オレの知り合いか?」
「そうよー? 300年ぶりぐらいかしらね」
 カイはくんくんくんくんと鼻先を近づけ、猫垣先生の体臭を嗅ごうとするが、何か不純な香りが混ざり合い、良く分からない。
「ふふん。あなたの鼻をごまかせるんなら、この特性香水の効果は抜群ってところね」
 最初から上がり気味の、猫の口角を更ににんまりと上げて、先生は微笑む。
「シャネルの香水に、妖力を薄める霊水が混ざっているのよ。私本来の能力も薄まっちゃって、人間に化けるぐらいしかできなくなっちゃうけど、同業者と、私たちを祓いたいっていう連中の目は背けるわ」
「お前、もしかして、五徳猫か?」
 話し方でピンときていた。
「あらご明察、わかっちゃった?」
「嗚呼。だが驚いたぜ、世捨て人のお前が、ガッツリ人と絡んでるどころか、人に交わって人として生きてるなんざな」
 博識で有名だった信濃前司行長(『平家物語』の作者)は、ある時、『秦王破陣楽』という4人で踊る舞の踊り方を忘れてしまった事から、「五徳の冠者」とあだ名をされる事になったという。『秦王破陣楽』は別名「七徳の舞」と呼び、そこから二徳を失ったという訳だ。その事で世間に嫌気がさし、行長は遁世してしまった。五徳猫はこのエピソードと、古来から五徳は付喪神として化けるという謂れ(『土蜘蛛草紙』には五徳牛とでも言うべき、五徳と牛が合体した妖怪が登場する)を合わせて誕生した妖怪との説がある。

gotokuusi.jpg
『土蜘蛛草紙絵巻より五徳を冠に抱いた牛の妖怪』

 ちなみに五徳とは、やかんや、金網を火にかける時に乗せる台の事で、火と関連する事から古来より、呪術に用いる道具としても知られている。かの有名な「丑の刻参り」では五徳を頭に載せ、そこに蝋燭を刺して行われる。
 そういう訳で、古来より五徳は妖怪と関連の深い道具とされ、牛と合体したり、または五徳そのものが妖怪化したり、五徳猫のように猫と合わさったりする(五徳猫風の妖怪の初出は室町時代の妖怪画『百鬼夜行絵巻』であるが、五徳猫の名称は1784年(天明4年)に発売された鳥山石燕の『百器徒然袋』が初と思われる)。
「そりゃねえ、300年も生きてたら考え方も変わるわ。人を避けるのも、人と一緒にいるのも結局は同じ事ってわかったしねぇ」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
「しかし女に化けるってのは良い方法だったな。ところでお前メスだったか?」
「300年も生きてから、そんなのもうどっちだって良いのよ。それに、こっちの方が人間として生きていくには、いろいろ都合がいいしねぇ」
 カイは気配に気が付き、妖力を最小限にした。突然ガラガラと人間が入って来たのだ。
「猫垣先生! おりますか!」
「あら〜? 権田先生いらっしゃい。どうかされました?」
 巨大な権田と呼ばれた男は、その後、どうやら五徳猫を食事に誘おうとしたが、軽くあしらわれて大きな体を小さくして帰って行った。
「なんだありゃ?」
「うふふ。私のファンってところかしらね」
 妖怪は忘れられては生きていけない。消え去って存在がなくなってしまう。そうならない為に生きる方法は、カイのように特定の誰かの心に憑りつくか、五徳猫のように人間として生きて、関係する人間たちが向けてくる感情を糧として生きていくしかない。恋愛感情を向けられるのも、立派な生きる手段なのだ。
「なるほどねぇ」
「それはそうと王様、あなたもだいぶ、見た目が変わったわね」
「お。おうそうだ。オレがどうしてこうなっちまったのか、心当たりはないか?」
「あなた、300年前、ええっと、正確には278年前ぐらいかしら。船月堂と一緒に妖怪退治していたじゃない?」
 船月堂……船月堂……。
「何よその顔??? あんたもしかして、記憶にないの??」
「いや、復活してから実は記憶がほとんどないんだ。自分が塵塚の王だって事とか、そういうのは覚えてるんだが、何故こうなったのか、そういう記憶がない。だから文車を探してるんだが」
「あら文車ちゃん! 懐かしい! みんな一体どうしてるのかしらねぇ。文車ちゃんの事覚えてるなら、船月堂の事だって思い出せる筈よ」
 そうだ……オレは、昔、ただ単に塵塚の怪と呼ばれていた。俺はただ無尽蔵に塵を捨て続ける人間どもに悪さをして、ただ暴れるだけの妖怪だった。そこに、あいつが来たんだ。ひょろひょろとしたやつで、隣に小娘を連れて……。
 それが、船月堂と文車妖妃だった。
 あいつはオレに「王になれ」と説いた。
「ゴミはゴミでも、燃えるゴミであればいい」と言った。
 そうだ思い出してきたぞ。俺はあの日、塵塚の王になったのだ。
 だが、肝心な事が思い出せない。
 何故自分が封印され、この姿で復活したのか。思い起こそうとしても、霧がかかったみたいに何も見えない。
 真剣に思案し黙り込んでしまったカイに、五徳猫が声をかける。
「まぁ、私と会った事で何か思い出せたんなら、他の付喪たちに会ったら、もっと思い出せるかもね。それこそ、文車ちゃんとか」
「それもそうだな。おい五徳猫、お前他にあの頃のあいつらの居場所、知らないのか?」
「そうねぇ。みんな散り散りになっちゃって、最近は音沙汰もないわ。でもね、例えばだけど、あなたが復活した場所とか、そういう場所を当たってみたら? 何か手がかりが残ってるかも知れないわよ?」
 そういって五徳猫は悪戯っぽく笑うのだった。


 夢のうちにおもひぬ(1)

 佐野豊房は、所謂見える人だった。
 感受性が豊かで、人の心が生み出す怪異を実体として観る事ができた。
 1732年、享保17年。閏年。大飢饉が起こり、江戸の人々は飢えに苦しんでいた。後に享保の打ちこわしと呼ばれる暴動が起こり、人々の心は荒みきっていた。
 当時20歳(18歳との説も)の豊房には、町中に蔓延る餓鬼の類、魑魅魍魎が徘徊する世界が見えていた。
 自身もひもじかったが、そういう時こそ豊房は本を読んだ。『徒然草』を愛読し、いつかこの酷い世界から、自分が大好きな、風流を愛する世界になる事を夢見ていた。
 ある日の事。
 豊房の元に少女が訪ねてくる。身なりから察するに百姓の子という訳ではなさそうだ。豊房は幕府御坊主の家系なので、案内を頼む者かとも思ったが、どうやらそういう訳ではないらしい。
「私は、ふみと申します。あなたにお願いがあって参りました」
 父ではなく、自分に用だと確かに少女は言う。その、どこか神聖な、上級者っぽい、言わば紫式部の後輩っぽい雰囲気は、無下に断る事もできない様子だったので、豊房は彼女を屋敷に通した。
 聞けば、彼女は妖怪の類で、書簡に託された想いが変化したものなのだと言う。
 普通ならにわかには信じられない事だが、豊房はそもそも見える男であり、ついに自分にも怪異が訪れたかと、内心わくわくしていたのである。
「それで、私は何を?」
「妖怪退治をお願いとうございます」
「妖怪退治? 莫迦を言ってはいけません。私には妖怪を倒す剛力もなければ、殺める方法も知りません。どなたかとお間違えではないでしょうか?」
 しかしふみは頑なに豊房しかありえないのだと諭す。
「豊房様も、今のこの世の状況は良くご存じでしょう。飢饉に人々は飢え、心は蝕まれ、世間には悪鬼があふれかえりました。これを起こしている原因となる妖怪が存在しているのです。私はある陰陽師にお仕えしておりましたが、その妖怪に敗れ、私に最後の言葉を託されたのです」
 まさかその陰陽師の占いで自分に白羽の矢が立ったのだろうかと豊房は困惑する。しかし、そういう訳でもなさそうだった。
「かの方は仰りました。塵塚の怪を味方にし、妖怪退治をするのだと」
「塵塚の怪? どうやらそれは某ではないようですが」
「はい。塵塚の怪は、江戸の外れにある塵塚で生まれた妖怪です」
「あぁ、あそこか。あそこなら何か妖怪が生まれてもおかしくはないですね」
 飢饉による死者を塵塚に集め燃やしたという話を聞いていた豊房は納得した様子だ。
「一度行ってみたのですが、暴れるばかりで話を聞こうとしないのです。そこで豊房様のお力が必要とお見受けいたしました」
「全然話が見えてこない。どうして私が?」
「豊房様は、人の心が理解できるからです。私と話せる事が何よりの証拠。この荒んだ世の中でも想像力を忘れずに生きておられます」
「それは……」
 言い出して、つかえる。幕府御坊主の家系に生まれ、裕福な暮らしをしていた豊房は、父の後を継ごうともせず、風流毎ばかりに関心を持つ、世間から見れば遊び人のような男だったからだ。食糧は少ないながらも食えぬ程ではなく、民よりも余裕があってこその想像力である事は、豊房も重々承知していた。そこまで厚かましい男でもなかった。
「それで、某は何を?」
「一緒に塵塚の怪の元へ赴き、一緒にこの飢饉の元凶となる妖怪退治に協力するよう、説得してほしいのです」
「某にそんな大役が務まるものか……」
「兎に角、一緒に来ていただけるだけでも構いません。どうかこの世を救う為です。お力をお貸しください」
「この世を救う、か……」
 これまでの人生、遊び呆けてきた豊房である。ここにきて、民の苦しみも見るに忍びない。第一、世の中が明るい気分でなければ、風流も、粋である事も、ある意味では酔狂になってしまう。
「某になにができるかは分からぬが、一緒に行くだけという事ならば」
 豊房は承諾し、ふみと共に外れの塵塚へと向かった。

  (つづく)

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あとがき

久しぶりのあとがきでございます。

お仕事が忙しくて、
更新が遅くなってしまって申し訳ないです。

少しずつ少しずつ、物語が動いてまいりました。

今後しばらくは
塵塚怪王生誕の秘密に迫る
船月堂こと豊房とふみ(そうです。センパイとふみちゃんがモデルです)の
『夢のうちにおもひぬ』と、
現代の千里子とカイが現代妖怪に挑む『本編』が
交互に進行して参ります。

かなり変わった描き方をしますので、
ごっちゃにならないようにと、
あとがきで「そうなりますよ」と言っておく事にした次第ですww

そういう訳ですので、
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
ご感想もお待ちしています!

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2013年06月26日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(8)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 Deep Sky 05

 それから私は、シスターからのメールの指示通り行動した。彼に送るメールは一文字一句間違わないよう気を遣ったし、「そんな事して大丈夫なの?」って行動にも従った。
 それから何日かして、二人は結ばれた。
 この瞬間が永遠に続けばいいのに。
 私は彼の腕の中で幸せだった。
 私は彼の彼女。もうこれは覆らない。シスターのしかけた数々のドラマチックなエピソードが二人の絆を強固にし、そこには誰かが入り込む余地何てないし、彼は私に夢中だった。
 だけども、少し、不安な事があった。
 それは、シスターからのメールが彼と付き合い始めてからも続いている、という事だ。
 内容は、変わらない。付き合う前と同じように、指示が送られて来る。ほとんどが簡単な事だ。朝、観葉植物にお水をあげるとか、クラスで目立たない子に1回声をかけるとか、一日一善みたいなもの。おまじないと言っても良い。
 ただ時々、中には『週末彼と会ってはいけない』とか、付き合い始めでラブラブで、始終一緒にいたい時期にしては、なかなか酷な指示が紛れている事もある。
 一体この指示はいつまで続くんだろう?
 もう十分助けてもらって、願いは叶った。
 正直、それが重荷になっていた。簡単な事の筈なのに、対価を得てしまった今は苦痛でしかない。たまりかねて、シスターにメールで尋ねてみた事がある。

『シスター、もう願いは叶ったのに、まだ指示に従わないといけないの?』

 返事はこうだった。

『指示に従わないと、
 あなたは不幸になるわ』

 もはや奴隷だった。シスター・フグルマは、「みえ」を再起不能、或いは殺めるだけの能力がある。もしも指示に従わなかったら、何が自分に降りかかるか、わかったものじゃない。
 彼との楽しい日々にもだんだんと慣れてきて、「あこ」はシスターが酷く異常な存在である事に気が付き始めていた。恋は盲目と言うけれど、冷静じゃなかった。他の人を不幸にしてまで勝ち取りたかった彼の隣にいても、シスターに監視されているような気がして怖くて仕方がなかった。
 そんな時、彼が私を誘う。
 「今度の週末、デートをしよう」「今度の週末、家に誰もいないんだ」「今度の週末、旅行に行かないか」
 どれでも良い。とにかく「あこ」にとって、嬉しいお誘いだ。より彼との仲が急接近しそうなイベントである。
 当然二つ返事でテンションが上がる。
 しかしその日の深夜12時。シスターからのメールには、残酷な指示。

『週末のデート(彼の家、旅行)に行ってはダメ』

 そして「あこ」の中に、何かが弾ける。
 彼と一緒にいたい。もう彼は私の事が好きなんだから、何があっても大丈夫。シスターの手助けなんか必要ない。シスターの指示を破るのは怖いけど、いつまでも従ってられないし、もう十分従って来た。それに、彼と一緒にいれば、彼が私を守ってくれる。私は大丈夫。私は大丈夫。私は大丈夫だ。
 自分を納得させるように思い込んで、「あこ」は週末、彼と一緒だ。
 深夜12時、蜜のように甘くとろける時間を過ごして、幸せのただ中にいる「あこ」は、心の中でひっそりと、「なんだ。指示を破っても、何も起こらないじゃない」と、余裕の微笑みを浮かべていた。
 すると突然、
「火事だ! 火事だーっ!!」
 という声が聞こえてくる。この場合の設定は、旅行先のホテルという事にする。
「え? 火事??」
 二人は飛び起きて、服を着ると、すぐ外に出る。火は既に大きく広がっているようで、もくもくと煙が廊下に立ち込めていた。咳き込みながら体勢を低くし、彼の手に引かれて逃げる「あこ」。しかし次の瞬間、崩れ落ちた瓦礫に、背中を強打し、その場に倒れ込んでしまう。瞬間、離れる彼の手。
「あ!」
 振り向く彼の顔は、血走っている。
「何やってんだよ! 早く立てよ!!」
 動けない。重い瓦礫が足を潰していた。熾烈な業火が獲物を狙う猛獣のように猛り狂う。その大きく開いた口は、もう二人を飲み込む寸前だ。
「ダメ、もう歩けない。先に、行って」
 言いながらも「あこ」は、きっと「彼」が助けてくれる。そう思っていた。
 しかし彼の顔は、この燃えるような火事場とは対照的に酷く冷たく見えた。
「そっか。悪いな」
 それだけ言って、踵を翻し、足早に去って行く。逃走だ。
「ば、バカ! 嘘、ちょっと、助けなさいよ!!!」
 絶叫は崩れゆくホテルの軋む音にかき消され、健脚でもって離れた彼の耳には届かない。
「うそ、うそうそ。やだやだ、こんなのバカバカ」
 自分の皮膚がみるみる火ぶくれを起こしていくのが分かった。乾く。乾く。ノドが渇く。熱い。熱い。こんなの、嫌だ。心が乾ききっていた、あの頃。それを潤わせて欲しくて、彼を求めた。シスターに頼った。ごめんなさいごめんなさい。これは指示に従わないから? 許して、許して。ねえ許してよ。
 その時、ポケットからメールの着信音が聞こえた。
 火傷で感覚がなくなった指先で、発熱して今にも爆発しそうなケータイを開く。
 そこには、こう書かれていた。

『指示に従わないから、こうなったのよ。
 でもね、安心して。
 彼はこれから先も、あなたの事を忘れないわ。
 あなたが彼を逃がして、助けてくれたんだもの。
 あなたは彼の恩人になったの。
 そういう風に彼は理解して、死ぬまであなたの事を思い続けるわ。

 おめでとう。

 これで本当に、彼はあなたのものよ』



 弐ノ一

tirituka.jpg

 それ神羅万象およそかたちをなせるものに長たるものなきことなし。
 麟は獣の長、鳳は禽の長たるよしなれば、このちりづか怪王はちりつもりてなれる山姥とうの長なるべしと、夢のうちにおもひぬ。

   (鳥山石燕『百器徒然袋 上』塵塚怪王より引用)


 慣れ、というのは恐ろしいもので、感受性豊かな14歳の千里子は、既に妖怪童子の存在を受け入れてしまっていた。どのぐらい受け入れたのかと言うと、塵塚怪王を「カイ君」とあだ名で呼ぶぐらいの開放っぷりだ。漫画で会得したという、子供のような喋り方を真似る塵塚怪王が、既に本当の子供の様に思えてしまっているのだろう。人は見た目が9割、とはよく言ったもので、妖怪にまで当てはまるのだから恐れ入る。ま最も、妖怪という存在自体も人の心の具現化であり、具現化するには「見た目」が必要なのであり、しかもその「見た目」は名は体を表す状態である事が望ましい事から考えれば、妖怪こそ見た目9割、寧ろ10割と言っても過言ではないのかも知れない。
 当初「カイ君」と呼ばれる事をくすぐったいと感じていた塵塚怪王であったが、こちらも直ぐに受け入れたようだ。悪鬼の如き自分を、そうした距離感で受け入れてくれようとする健気な小娘に、怪王なりに気を遣っているのかも知れないし、もしかあまり深く考えていないのかも知れない。その辺はご想像にお任せします。
「なんだ。やっぱり出かけるのか? あのでかい寺小屋へ」
 忙しなく身支度をしている千里子をぼんやり眺めながら、塵塚怪王、いや、ここからは千里子にならってカイと表記するが、カイは尋ねた。
「そうよ。友達が相談事があるみたいだし、それに昨日の事、先輩方にもお礼しなくちゃだし」
 と、ここまで言って、千里子は人間離れしたスピードで振り向く。
 目が合う。
 カイは「どうかした?」という顔で、制服へ着替え中の千里子をじろじろと観察するように眺めている。
「きゃぁーーーー!! カイ君のエッチ! 着替え中は出て行って!」
 枕、座布団、目覚まし時計が飛び交う。カイはそれを器用にひとつずつ、両手と足の指でキャッチしながら、「この時代の女は乳にブラジャーというものをする、と漫画に描いてあったが、実物はかわいいものだな。あの中にピアノ線を仕込むのか」等と独り言で部屋を出て行った。
「もう……。漫画の読み過ぎなんだから……」
 千里子は手早く着替えを済ませ、机に飾ってある、まだ自分が幼い頃の家族写真に目をやった。父と母と、子犬を抱いた小さな千里子が映っている。千里子がこれより少し大きくなって、ブラジャーを初めてつけた時、この子犬(その時はもう大きくなっていた)が、何か遊ぶものと間違えて、咥えて市内をぐるぐる駆けずり回った時は本当、顔から火が出るぐらい恥ずかしかったっけ。そんな事を思い出して、千里子は淋しそうに笑った。
 午後からの授業の支度をして部屋に出ると、カイは唇を蛸のように尖らせて、廊下に座っていた。目覚まし、枕、座布団、そしてカイと、背の順にきっちり並んでいて、それがどことなくシュールな笑いを誘い、千里子はくすくす笑う。
「物投げてごめんね。片付けてくれてありがとう」
 そう言うとカイは、
「こいつらは捨てる物じゃないだろ? 未だオレの物じゃない」
 と蛸唇のまま答えるのだった。

  (つづく)

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2013年06月20日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(7)

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 Deep Sky 03

 24時間、私は居ても立ってもいられなかった。もどかしくなったり、胸が変に高鳴ったり、或いは急激に奈落の底へ突き落されたみたいな絶望を味わったり。まったくもって忙しい。
 誰、とは告げなかったものの、私、は彼に告白のメールを送ったのだ。これが気にならない訳もない。
 今頃不審に思ってる?
 もしかして私からって気づいてる?
 ううん。彼が好きだって噂のあの子からのメールかもって考えてるかも。
 違う。そうじゃない。送ったのは私。それを伝えたい。振り向かせたい。自分がここにいて、こんなに大きな気持ちを抱えてるって事、分かってほしい。
 学校の廊下ですれ違った時、伏し目がちでそ知らぬふりをして、通り過ぎた時振り返って、
「メールをしたのはこの私!」
 って、どんなに叫びたかった事か。心細いんだよ。こんな宙ぶらりんの気持ち、初めてだ。もうどうしよう。
 でもだけど、待つしかないんだ。それしかない。それが支持。宇宙の法則に似ている。私はそれに従うしかない。でなきゃこの話、ここで終わってしまうんだから。
 経過した。昨日と同じ時間ピッタリに、メールが届いた。ずっと気を詰め過ぎていたから、私はベッドの上で、うとうとしていた。けれどもバイブレーションの音で飛び起きて、すぐにメールの内容を確認する。

『おめでとう。
 ミッション達成よ。
 あなたは24時間、良く耐えたわ。
 もうすぐ彼は、あなたの虜。

 でもね、いけない。
 邪魔してる人がいる。

 心当たりある?

 恋はね、順番があるの。
 今は未だ、あなたにその順番が回ってきていない。

 彼はあなたの気持ちに気付きかけてるけど、
 恋のライバル出現って感じよ。

 心当たりはない?
 彼があなたに振り向かない、その原因。

 もしも思い当たるなら、
 その子の名前を私、シスター・フグルマに教えてちょうだい?』

 あいつだ!
 あいつだ!!
 あの女だ!
 私が「A子」の「あこ」だから、あいつは「B江」で「美江」の「みえ」だ!
 私は「みえ」が大嫌い。彼の幼馴染か、或いは所属してる部活のマネージャーとか、とにかく近い位置にいて、彼を見る目つきを見たら恋してるってすぐわかる。あんなに近くにいたんじゃ、私は全然近づけない。あの子が憎い、あの子が憎い。書いちゃえ書いちゃえ。あの子の名前を教えて、排除してもらわなくっちゃ。

 『みえ』

 送信すると、返事はすぐに来た。

 『ありがとう。
 名前、教えてくれて。
 明日またメールするわね。
 私を信じて。
 シスター・フグルマより』

 何だったんだろう何だったんだろう。これ本当に大丈夫? 一時期冷静さを失っちゃって、よくよく考えたら訳のわからない人に、個人情報だだ漏れしちゃってるかも知れない。送ってちょっと後悔してる。
 でももしも、名前を知らせた事により、「みえ」が彼から離れてくれるような事があったら、いよいよこのメールは本物だ。都市伝説なんかじゃない。本当に効くおまじないなんだ。
 かくして翌日。
 何気ない日常。ぼんやり暮らしてお昼休み。飛び込んできた非日常。ひそひそ聞こえる噂話ざわざわ。
「どうしたの? 何かあった?」
 聞いて私は絶句する。
「あのね何組の『えみ』って子がね、事故にあったんだって」
 その内容は千差万別話の数だけバリエーションも多種多様。事故じゃなくて病気だったり、入院してしばらく学校に来れないという軽いものから、腕や足が欠損したとか、顔が傷だらけになって見れたものじゃなくなったとか、尾ひれがついて残酷描写に拍車がかかったものまで盛り沢山。
 でもねここで重要なのは、あのメールのお蔭でライバルが消えた、って事。ここがポイント。私はもう、彼が私の虜なのではなく、私がすっかりシスターの虜みたいなものになっていた。


 Deep Sky 04

「私のせい?」
 って自問自答や自己嫌悪に陥る場合もあるかも知れない。でも、こういう話で語られる「私」=「あこ」は、案外その辺考えなしだったりする。悪い時には、「えみ」の事故死や半身不随を喜んでみたりして。
 私はどうだろう?
 私はあなたの心の中にしかいないから、その辺どんな風に想像して、補ってもらったって構わない。かえってこの時点で「私」が悪人になってた方が、話のオチまでスムーズに進んでいくから、悪者っぽく考えておいてくれて、私は全然構わない。
 またあのメールから24時間が経過して……そうそう。このメールのする時間も深夜12時丁度とか、尤もらしい設定があった方が説得力があるよね。全然そんな描写これまでなかったけど、深夜12時丁度にメールするって事にしちゃおう。
 かくして深夜0時。1日が終わり、1日が始まる、夜でも朝でもない時間。メールが届く。私は興奮気味にそれを確認する。

『おめでとう。
 あなたのライバルはこれでいなくなったわ。
 もうすぐ、彼はあなたのものよ』

 もうすぐなの?
 まだなの?
 私はどうすれば良いの、教えてシスター!

『あなたは一人の生贄を捧げた事で、
 少しだけ有利に人生を運べるようになったわ』

 え?
 そうなの?
 やったラッキー!

『私には見える。
 総てが見える。
 あなたがこの先、どういう行動を取れば彼と結ばれるか、
 手に取るように見えているわ』

 本当?
 本当なのシスター!
 教えて、どうしたら良いのか教えて!!

『これから先、
 わたしが送るメールの通りに行動しなさい。
 その通りに行動できれば、
 きっとあなたは彼の忘れられない存在になるわ』

 ありがとう!
 ありがとう!!
 私、何でもするわ。
 だって一人、恋のライバルを再起不能にしてるんだもん。この恋を実らせなかったら嘘だわ。「みえ」にだって悪いじゃない。私が幸せになってあげなきゃ、世の中間違ってる。
 教えてシスター。私は先ず、どうすればいいの?
 最初の指示は、彼に近づこう、という趣旨のものだった。関係性はどうあれ、身近な人が事故にあったり或いは死んだりしたのだ。確かに心細くなってる筈。隙間はある。その方法は、ケースによって違う。マネージャーになれとか、とりあえず話しかけろとか、具体的に接近する方法の書かれた指示が書いてある。話によっては、そのタイムリミットが設定されている事がある。いついつまでにこのような事をしろ、とメールに書いてあり、実行しないと恋は実らない。だけじゃない。末尾がこう結ばれる場合もある。

『もしも実行できないと、
 あなたに不幸がふりかかるわ』

 と。
 「みえ」の結末を知ってるから、恋を実らせたい思いと、その恐怖のもう半分から、必死に指示、いや、命令を実行しようとする「わたし」。
 「わたし」にも「みえ」と変わらない未来が待ってるとも知らず、危険な恋にのめり込んでいく。

  (つづく)

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2013年06月12日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(6)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 Deep Sky 01

 例えば、私の考えている事を
 例えば、この気持ちを

 そっくりそのまま貴方の元へ
 届け、感じさせる事ができたなら

 貴方はあたしのその思いの深さに、
 心震わせ感動し、すぐにも会いに来てくれる事でしょう

 なのにどうしてもできない
 なのにどうしても勇気がない

 ねえ、女の子から声をかけるのなんて
 ルール違反なのは知ってるでしょう?

 だからきっと話しかけてきてくれる
 そう想っていたけれど

 この気持ち、知ってか知らずか
 貴方は無関心のふり

 この気持ちを伝える唯一の手段は
 文章で伝える以外に他はない

 だからあたしは今日も送る
 だからあたしは明日も送る

 空を見上げて、自分を信じて


 Deep Sky 02

 私はA子。
 直接メインのストーリーに関係ないからって、適当に名前を設定された、私はA子。
 それじゃあんまりだから、「A」は「あ」とも読めるし、「あこ」って名前にしてしまおう。
 私は、あこ。
 高校2年生。どこにでもいる平凡な女の子だ。
 でも、実際「どこにでもいる」「平凡な」人間なんて、きっと存在しない。良く知りもしないで、きっと頭の情報処理能力に問題があるのかな、そういう良く知りもしない人間の事を人は案外、「どこにでもいる」「平凡な」っていうカテゴリーに置いてきぼりにしちゃって、考えないようにしちゃう癖がある。
 知り合ってみたら案外、……例えばそうね、子供の頃ネズミに耳を噛まれた経験があるとか、面白い話を持ってる女の子だったりする事もある。
 え? 私?
 私は違う。
 それは私のエピソードじゃなくて、別の女の子のもの。
 私はあなたの頭の中のある「どこにでもいる」「平凡な」女の子だ。そういう概念をそのまま、「A子」の「あこ」に押し付けてもらって構わない。
 それが、私に与えられた設定なのだから。
 この年代の女の子は、実に多感だ。未だ様子見か慣れていない一年生でもなければ、進学か就職かで揺れる三年生にもちょっと遠い。高校二年生は、ある意味青春の中心に位置する特別な時間なんだ。
 その特別な時間、私はどうやら、恋に夢中という設定らしい。
 私には好きな人がいて、彼は私に振り向いてくれない。
 彼はどういう人かって? それも好きに決めちゃっていい。サッカー部とか、バスケ部とか、そういうところで活躍してるようなスポーツマンタイプの爽やか男子でも、どこか陰のある猫っ毛優等生タイプでも、あなたが好きだと思う人を私も好きだと思ってくれて、それで間違いはない。
 問題はそんなところにはないのだから。
 肝心なのは、私が例えば誰かの友達だったり、他の学校の生徒だったり、遠い親戚の子だったり、確かにあなたの身の回りにいる「誰か」で、それでいてそんな子が、「誰か」を好きだって思ってる。ここ部分だけ今は押さえておいてくれたら、ディティールは対して重要じゃない。
 私、あこは今、恋をしています。
 実りそうもない、少し無理目の高望みをして、いつか叶う事を夢見ています。
 そんなある日の事でした。
 スマホに一通のメールが届くんです。差出人は、知らないアドレス。身に覚えはないけれど、タイトルが目を引きます。私に届いたタイトルは、きっとあなたに見せても、心に響くものではないでしょう。でも、私には響くんです。そのタイトル、その言葉のチョイスは、私の心の揺らぎを敏感にとらえた、とても心地の良い悪魔の囁き。
「イタズラかしら」
 そういう不審の気持ちも起きない訳ではないけれど、それでもやっぱりタイトルに惹かれて私はそのメールを開けるわけにはいかなくなってしまう。
 私の場合はね、恋をしてる設定だから、

【恋に効くおまじない】

【このメールで相手が振り向く】

【あなたの気持ちがきっと届く】

 こういう陳腐なものが届いた事にしちゃっていい。カジノのルーレット。当たりはひとつ。どこに球が入るかは分からない。私の心の隙間に球が入るなんて確率、それと同じぐらい難しい。でもそこにコロンと入ってしまったら、どんな陳腐な言葉も表現も、脊髄に電流を流し、脳漿に波紋を広げるぐらいの衝撃になる。まさしくビンゴ!
 開封すると、中には大体決まった文句。

『あなたがもしも恋をしていて、
 その恋を実らせたいなら、
 空メールを送ってね。

 愛の伝道師・恋愛アドバイザーのシスター・フグルマが
 明日彼に送るべきメールと、
 その後のあなたのとるべき行動を送ってあげる。

 ゴミのような恋愛よりも、
 燃えるような恋をしたい
 そんなあなたの、私は味方』

 感電してる私の脳は、疑いようもしない。この世に存在しない、暗黒魔界に届くかもしれない空メールを送信してしまう。
 しばらくすると、返事はすぐに届く。
 メールにはこう書かれている。

『あなたの思いを素直に伝えなさい。

 【あなたが好きです。】

 先ずはこのメールを、
 名前を知らせずに送るのです。

 そうして、24時間、あなたは何をしてもいけません。
 普通に接して、メールを送った話を誰にしてもダメ。
 それができたら、次の指示をメールするわ』

 私はドキドキ、胸高鳴って、変にそれでうまくいくような気になって、言われたとおりにメールする。
 それが、地獄の片道切符である事も知らずに……。

  (つづく) 

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『twitter』
https://twitter.com/kyouki_love_sat

『facebook』
http://www.facebook.com/kyoukitakahashi

【改造人間・高橋京希、今回の獲得経験値】
 Lv1 肉体力:0(通算9P)
 Lv2 精神力:+1(通算24P)
 Lv1 容姿力:0(通算6P)
 Lv4 知識力:0(通算47P)
 Lv1 ヒーロー力:0(通算9P)
 Lv5 趣味力:+0(通算181P)

posted by きょうきりん at 14:51| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月05日

後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 1st burn 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える(5)

 前回までの『燃える塵戦記』目次はこちら

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 壱ノ九

 翌朝。塵塚怪王は、早朝から、いや、正確に描けば千里子が就寝した後から、今では主のいない犬小屋がある小さな庭に出て、そのほぼ中央に陣取るようにして胡坐で座り、目を瞑っていた。その後ろ姿に気が付いて、寝間着代わりの、グレーのくしゃくしゃしたTシャツに身を包んだ千里子は、この一連の流れが夢幻でない事を再確認する。
 最早恒例となったお仏壇と、その横に置いてある写真に手を合わせてから、顔を洗い歯を磨き髪をとかすと、未だ子供妖怪は座っている。ピクリとも動かない。あのままずっと座っているつもりだろうか。何かの儀式なのか、何なのか。邪魔していいのか分からず身支度で時間を費やしたが、そろそろ限界だ。おそるおそる千里子は塵塚怪王に近寄る。
「ねえ、眠ってるの?」
 返事はない。
「ねえ。怪王」
 そっと手を伸ばし、小さいけれど厳ついその肩に指先を伸ばす。それが触れるか触れないかの直前、怪王は目をくわっと見開き、
「おはよう!」
 と怒鳴った。
「ひゃ!」
 このパターンが多いけど、全然慣れない。驚いて芝生の上に尻餅を突いてしまう。
「お、おはよう」
 怪王はくるりと踵を返し、
「人間の娘、いや。お姉ちゃん、とでも呼ぶべきかな。とにかくおはよう。起きた?」
 と聞いてきた。千里子は柔らかい臀部についた葉の屑をぽんぽんと払いながら立ち上がり、
「もう、脅かさないで。あなたは寝てたの?」
 と脅かされて腹が立っていたのか、無意識に反抗して、質問に質問で返した。
「ううん。自分の能力を確かめてたんだ」
 そんな対抗を微塵も気にせず、怪王は部屋に戻りながら解説する。後をついて、
「能力?」
 と千里子。
「そうだよ。どうもやっぱりこの姿になってから本調子じゃないみたいだから、いろいろ確かめてたんだ」
「さっきの瞑想も?」
「瞑想って言うか、あれはね、世相を捕えてたんだ」
「世相?」
 いちいち、怪王の言う事は千里子の理解を超えていて、人が理解できない事を言われた場合そうする傾向があるとの心理学的データを反映するが如く、千里子の台詞はオウム返しが多くなる。
「うん。僕の能力の一つなんだけど、世の中に捨てられているものの情報を感じ取って、時代の世相を自分の知識に反映させる事ができるんだ」

塵塚怪王の能力その1】 ゴミから世相を知る事が出来る。

「捨てられてるものが情報源だから、今流行してるものからは数年遅いかも知れないけど、現代の事は大分理解できた。最も、300年ぐらい経過してたから、データのリローデットに一晩かかっちゃったけどね」
「あ! もしかして、だから喋り方も変わってるの??」
「あれれ〜。気付いちゃった? これ、捨てられてる『漫画』って言う書物の中に良い参考があってね。その中に見た目は大人なんだけど中身は子供っていう眼鏡のキャラクタが出てきて、今の状況に近いから喋り方の参考にしてるんだ」
 おそらく怪王が言っているのは千里子が生まれる前から連載されている推理漫画の事だろう。そんな現代のジャパニーズ・ポップカルチャーまで知っているのだから、現代の事を知ったと言うのは間違いなさそうだ。
「でもね、ごめん」
「ん?」
「その喋り方、あなたのキャラにあってない」
「ば、バーロォ……」


 壱ノ十

 それから千里子は、怪王の口調の微調整を行った。一人称は「僕」より「オレ」が似合うとか、自分の事は気持ちが悪いから「お姉ちゃん」より「千里子」で良いとか、寧ろ喋り方のモデルは、メガネの少年の近くにいたふくよかな少年の方が良いとか、細かい事だ。怪王は「何故我があんな役立たずと同じ口調なのじゃ」と、思わず元の喋り方に戻る程憤慨していたが、何とか納得したようだ。
 時間は既に登校時間を過ぎていた。行かなければならないと千里子は頭の片隅で思っていたが、今このような状況になっている時に、平然と登校するのは、それはそれで違うような気もしていて、昨日倒れた事も報告は行っているだろうし、このまま仮病で休む事にした。因みに、体調は異常なく、寧ろ昨晩死んだように眠りこけたせいもあってか、快調そのものだった。
「それで、他にどんな能力があるの?」
 そうと決まれば、千里子は怪王に興味津々だ。昨日話してくれた事は、状況に圧倒され流して聞いてしまっていて、実はほとんど頭に入っておらず、詳しく聞きたい事だらけだった。
「うん。そうだな。じゃあ、これだ」
 怪王が胸の前で印を組む。専門的には真言密教の仏眼仏母印と言われているものだが、千里子にその知識はないので、マンガの忍者が忍術を披露する時にやるポーズという認識ぐらいでしかないが、怪王は能力を発揮する際、この印を組む場合が多い。何か関係があるのかと思いたくなるが、怪王にしてみても無意識にとるポーズなので、因果関係は不明である。
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・アビラウンケン……」
 小さくぶつぶつと、呪文を唱える。
 すると、
「ひぃっ!」
 千里子は白目を剥いてぶっ倒れてしまった。
「ぉう。この術は効果抜群だな」
 それを見て「きひひ」とイタズラっぽく、怪王は笑うのだった。
 数時間後、千里子は目覚めた。
「私?」
 気絶を2日連続でするなんて、身体に悪いのではないかと思ったが、強烈な悪臭に耐えきれなかった。

塵塚怪王の能力その2】 体臭を悪臭に変える事が出来る。

「そう言えば、普段は何か、コーヒーみたいな匂いしてない?」
「ああこれか。これは300年前に去る人から教わったんだ。当時は薬だったがな、この香りならオレでも簡単に作れそうだったから」
 コーヒーには500種類もの匂いを発する成分が含まれていて、そのほとんどは個々に見れば悪臭と言われる物質なのである。
「で、他に何かあるの?」
「後は、これか」
 そう言って怪王が腕をひゅんと一回転させると、拳が燃えた。まるでマッチ棒だ。可燃性のガスを発生させる事で燃やす事が出来るのだろう。
「家の中では危ないから消して〜!」
「これっぽっちの火、全然本調子じゃないんだけどなぁ」

塵塚怪王の能力その3】 燃えるゴミの性質を利用して発火できる。

「他にもいろいろあるが、後はこれだな」
 怪王はぴゅいと指笛を吹いた。
 しかし、何も起こらない。
「おかしいなぁ。アイツ、オレの妖力が消えたからもう死んじまったか?」
 首を傾げる。
「我が王よ。私めは未だ生きておりますぞ。ほれこの通り」
 そう言えば開けっ放しの窓の方から、そんな声がする。
「きゃぁあああああ!!!」
 またしても千里子は絶叫後気絶してしまった。癖になってるな、こりゃ。
 千里子が気絶してしまったのも無理はない。軒先から顔を覗かせていたのは巨大な鼠だった。
 一時間後。
「オレの使い魔、我楽多丸だ」
 片目で首にスカーフを巻き二足歩行で人間の言葉を話してはいるが、ネズミはネズミだ。千里子は鼠が大の苦手だった。まだ幼い頃、家に一人でいた時、こっそり入って来た野鼠に耳を齧られた事があり、今でもその傷跡が残っているのだ。それは千里子にトラウマとして残っていて、現在も鼠を見ると逃げまどい、少し欠けた耳を見られるのが嫌で以来、一度も耳を出す髪型にした事はない。既に傷は癒えてほとんど分からないぐらいになっているのにだ。しかも良くないのは、このエピソードを話すと必ず国民的人気アニメである猫型ロボットの設定と同じなのでからかわれ、笑い話にされ、親身に受け取ってもらえない、というのも彼女の心の方の傷跡を結果として広げてしまっていた。
 そう言えば、それが原因で守ってもらう為、犬を飼ってもらったのだという事を千里子は少し思い出していた。今はもう、ネズミから千里子を守る犬はいない。
「まぁ、別に仲良くならなくても良いから、紹介だけな。我楽多丸もあんまり人間の娘を脅かさないように」
「嗚呼おいたわしや怪王様ともあろうお方が、人間の力を借りて生きているなぞ」
「喧しい。今日はもういね」
「それど私、300年もの長き間王を待って」
「いね!」
「……御意」
 鼠の使い魔はどこぞへ消えた。

塵塚怪王の能力その4】 ネズミを使い魔として操れる。

 怪王の能力紹介でお昼に差し掛かった頃、千里子のケータイに着信があった。それは友人の文谷恋からだった。

『チリ、今日は学校お休み? 相談したい事があるんだけど』

 (つづく)

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【改造人間・高橋京希、今回の獲得経験値】
 Lv1 肉体力:0(通算9P)
 Lv2 精神力:+1(通算22P)
 Lv1 容姿力:0(通算6P)
 Lv4 知識力:0(通算46P)
 Lv1 ヒーロー力:0(通算9P)
 Lv5 趣味力:0(通算173P)

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