2012年04月16日

破顔のワロス 完全版 11,12

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(11)

「確かに不可解なところはあるみたいですね。火のないところに、って言いますから」
 冷静に考えれば、そんな事ありえない。
 ゲームの中で起こった出来事は、総て仮想現実で起こった事だ。それが現実に影響を及ぼす筈もない。様々な偶然が重なってそんな風に見える事だってあるだろう。聞けば会社が取材嫌いのようだし、そういう側面もそうした噂をかきたてる一つの要因になっていそうだ。
 都市伝説など、大概にしてそういう物ではないだろうか。僕が子供の頃に流行した人面犬や、もっと前に起こった口裂け女。これも何か小さな発端があって、それが急激に尾ひれを付けて広まっているのに過ぎないのだろう。
「じゃあ特に調査するだけで、結果にはこだわらないって事でいいんですよね?」
 編集長は特に顔色も変えず、
「ああ。まあね、掘り下げて面白い結果になったら、それはそれだけど。調べてみて結局何もなかったら、それもやっぱりそれ。でも記事にはしてもらうよ」
「判りました」
「じゃあ頼むよ」
 その後事務的なギャランティの話などやり取りを交わしていると最後に、
「あ。その資料は私のだから、それをCDに焼いてるのを、あれ? いやぁ悪い。あっちに置いて来てしまった」
 と、二人で取りに戻る事になった。席を立とうとすると、何やら喧騒が近づいてくる。ドアを開けて入って来たのは先ほど編集室で会った記者と、白衣を着た初老の男、そしてスーツ姿の人相の悪い男性だった。
「どなた?」
「あ。超能力者の方々です」
「編集長ですかどうぞよろしく! 私はこのたび人類の隠された才能を呼び覚ます事に成功した男、羅生門と申す者です! こちらの神田君は今『人体能力向上スーツ』を着込んだ事で超能力を発揮する事ができる状態になっています!! それを今から証明いたしましょう!」
「あ。今忙しいので、後ほど。石垣君行きましょう」
 逃げるように僕を連れてそそくさと会議室を後にする編集長。廊下を歩く途中、ぼそりと「あれはインチキだな」と言って、にっこり僕に微笑むのであった。その顔は何故か子供の様にも見えたのである。


(12)

 編集室に戻ると、にわかに喧騒が聞こえてきた。先程まで皆、おのおののデスクでパソコンに向かったり電話をしたりと、忙しそうだったのに、今は全員窓際に張り付いている。
「これ何の騒ぎ?」
 編集長はずんずん近づいて、そのまま窓を覗き込んだ。
「何か殺人事件らしいんですよ」
「わ! 早く言ってよ。私は血ぃ、ダメなんだ」
 目を背けて編集長は冷や汗を拭う動作をした。オカルト誌の編集長が血がダメ何てどこかユーモラスに思える。
「なんです?」
 僕は編集長の抜けて空いたスペースに入り込み、眼下を見た。そこからは新宿御苑が一望でき、豊かに紅葉で色づいた景観が美しい。しかし、その情緒をぶち壊すように自然界では存在しない人口の、毒々しくすら思えるブルーシートが幕を張られるようにして囲んでいた。
 その中央には、白いワンピース風の服を着た女性が倒れている。胸元から出血しているようで、そこだけ衣服は赤く染まっているのが、ここからでも良く見えた。その横には、警官に周囲を見張られて、後ろに手を回した男が立っている。あいつが犯人だろうか。男はあっという間にそのまま、連行されて消えてしまった。救急隊員が近づき、現場は騒然としている。何かすごいものを見てしまったように思う。
 しかし、この胸に感じる違和感は何だろうか。
「ねぇ、今捕まった人すごくかっこよくなかった?」
「え? 私目が悪くて。本当?」
 隣で見物していた女子社員たちのそんな能天気な会話で、違和感の正体に気が付いた。逮捕された男は、確かに美男子であり、どこか貴族的な、堂々としたオーラのようなものを燦然と放っていたのである。それは犯罪者と言うより、抵抗軍の指揮者のようなカリスマ性を感じさせるものだった。
「石垣君、これ」
 笑っていた編集長はどこへやら。僕に『わろす』と表面にマジックペンでメモされたCD-ROMを1枚手渡した。
「それじゃあ失礼します」
 特に用もなくなったので、編集室を後にする。帰り際あの乳さんに会えるかと思ったが、どこかへ居なくなっていた。

  つづく

posted by きょうきりん at 22:19| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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